2019マカオGP雑感

Photo: MP Motorsport

FIAがF3を2クラスに“分割”した結果、今年からマカオGPの車両はインターナショナルF3のワンメイクとなりました。おそらくFIA F3参戦チーム以外でも購入はできるのでしょうが、この1戦しか使わないのでは費用に合わない。結果、ドライバーこそ多少の入れ替えはあったものの、必然的に参加はFIA F3チームに限定されました。レース自体の面白さ、レベルの高さは昨年までと変わらないものの、格としてはこれまでの「F3世界一決定戦」から単なる「非選手権戦」に格下げされた感があります。

そもそも昨年、一昨年と2連覇したMotoparkや、長年参戦し続けて来た名門トムスが弾き出されること自体、FIAはおかしいと思わないのでしょうか?

速すぎる新マシン

今大会から採用された新マシン「ダッラーラ F3 2019+メカクローム 3.4ℓ V6NA」は、予選で昨年から約5秒 (!) もの大幅な短縮。マシンの高速化に合わせてサーキットもFIAグレード2にアップデートされましたが、それでも画面を通して見ていても「ちょっと速すぎでは?」と感じるレベル。17〜18年と連覇したDan Ticktumもそのスピードに警告を発しています(Ticktum: Faster new FIA F3 car reaching “dangerous” speeds in Macau)。スリップストリームがガンガン効くマカオで、DRSが必要なのかも疑問ですね。

今大会は新マシンでの初レースということもあってか、ドライバーにも例年より幾分慎重さがあったようで、大きな事故もなく無事終了しました。ただ当然これが来年以降も続くとは限りません。セットアップが進めば、さらなるタイムアップは必至ですし、海側であのスピードで多重クラッシュが起こったらと思うと………ちょっと恐怖を感じますね。

    誰も予想しなかった伏兵が優勝

    さてレースですが、ジュニア・フォーミュラをチェックしている人の中でも、おそらくRichard Verschoorの優勝を予想した人は1%もいなかったのでは? それくらいサプライズ、思わぬ伏兵の優勝でした。MP Motorsportにとっても初参戦初優勝の快挙達成です。

    Verschoorは2016年にスペインとSMP (NEZ) のFIA F4でフォーミュラ・デビュー。両シリーズを跨いで13連勝という、カテゴリーのレベルを考慮しても驚異的な連勝を達成し、一躍注目を集めました。早速翌年にはレッドブルにスカウトされ、マックス・フェルスタッペンに続くオランダの新星かと期待されたのですが、17年のFormula Renault Eurocupでは未勝利(同NECでは1勝)に終わりランキング9位と低迷。案の定、たった1年でレッドブル=ヘルムート・マルコからも切られてしまいます。

    その後もEurocup〜GP3と参戦を続けましたが不振が続き(唯一、Toyota Racing Seriesでは17年3位(3勝) 18年2位(6勝)と活躍)、今年のFIA F3でも未勝利どころか表彰台すらなくランキングも13位止まり。もはやすっかり忘れられた存在だったのですが、初めてのマカオでいきなりの優勝です。元々ポテンシャルはあるドライバーだけに、この結果が今後のキャリアに繋がるか注目したいですね。

      マカオのジンクスは続くのか

      優勝こそ逃したものの、Juri Vipsにとって2位は最上の結果かもしれません。

      その理由は、2005年のルーカス・ディ・グラッシを最後に「マカオ・ウィナーはF1に昇格できない」というジンクスの存在にあります。もちろんマカオ・ウィナーは、2勝のエドアルド・モルターラ、フェリックス・ローゼンクビスト、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタをはじめ、世界的に活躍するトップドライバーを何人も輩出しているのですが、なぜかF1だけは縁がない。レッドブルの次期最有力候補と目されていたTicktumが昨年、一昨年と2連覇したときには、さすがにこのジンクスにも終止符が打たれるのでは?と思ったものですが、その後の顛末は皆さんご存知の通り。Vipsは寧ろ2位で良かったとすら思えます。

      21世紀に入ってマカオGPを制してF1に昇格したのは、前述のディ・グラッシと佐藤琢磨の二人のみ。それ以前(F3格式になった83年から2000年)にはアイルトン・セナ、ミハエル・シューマッハーをはじめ、デイビッド・クルサード、ラルフ・シューマッハー、マウリシオ・グージェルミン、デイビッド・ブラバム、マーティン・ドネリー、ラルフ・ファーマンなどが後にF1レギュラーに昇格していますし、F3化以前にはリカルド・パトレーゼやロベルト・モレノも勝っています。

      これは時代の変化が最大の原因でしょう。かつてはマカオでの活躍がF1への道に繋がっていたのが、今はマカオの時点で有力ドライバーは既にF1チームの育成プログラム下にあり、あくまで年間の1レースという扱いに価値が下がっています。マカオの結果がその後の去就に影響を与えることもありません。
      今年、全日本F3最後のチャンピオンとなったSacha Fenestrazなど最たる例で、彼は昨年のマカオで3位表彰台を獲得しましたが、F3のレギュラーシーズンではランキング11位に低迷。その結果、マカオの成績如何に関わらず、ルノーの育成プログラムを外されて日本にやって来たという経緯があります。今後もこの傾向は続きそうなので、ジンクスが終わるのもまだまだ先になるかもしれません。

      角田は出だしのクラッシュが響く

      Verschoor優勝と並ぶサプライズだったのが、Logan Sargeantの3位表彰台でした。レギュラーシーズンでは最高8位、ランキング19位だったドライバーが、大舞台でいきなり表彰台ですからね。この辺りもF1チームがマカオを重要視しない理由かもしれません。

      Carlinはレギュラーシーズンでは10チーム中9位と、まさかの大不振に終わりましたが、トレバー・カーリン代表も訪れる(近年はすっかり米国が中心)マカオでは毎年底力を見せてくれますね。

      そのCarlinから参戦し、史上初の3連覇を狙ったTicktumでしたが、いかんせん準備不足は否めず。F3 2019+メカクロームをドライブしたのは、FIA F3シーズン終了後のテストのみ。FPでのクラッシュで予選2回目の半分以上を棒に降り、予選レースでは1周目でリタイアと散々な週末でした。それでも決勝ではほぼ最後尾から13位まで追い上げる活躍で、3連覇こそならなかったものの、その速さをアピール。来季はDAMSからFIA F2に参戦という噂がありますね。

      日本勢は当然チームとしての参戦はなく、ドライバーも角田裕毅一人のみという寂しさ。角田にとって市街地レースはEuroformula Openでのポー以来二度目でした。マカオに向けてJenzerから強豪Hitech GPへと移籍し活躍が期待されましたが、最初のプラクティスでいきなりクラッシュとマカオの洗礼を浴びると、リズムを掴めぬまま予選でも下位に低迷。決勝で11位まで巻き返したのは、出だしの状況を考慮すれば上出来とも思える結果です。ただせっかくのHitechのチーム力を活かせなかったのは残念でした。
      ところでHitechといえば、メカニックは新木さんが担当したのでしょうかね??

        スーパーフォーミュラ・ライツ誕生とリージョナルF3の行方

        Photo: AutoMobilSport

        FIAがこれまで世界共通仕様だったF3を、インターナショナルとリージョナルの二つに分割(F317系も含めると三分割)して以降、その動向が注目されていた全日本F3ですが、先日Super Formula Lights (SFL) への名称変更及び、ダッラーラの新型車両”320″の導入、現行規定エンジン(専用設計の2ℓ直4 NA)の継続を発表しました。ダッラーラがF317の後継機を発表した時点で、予想された動きではありますが、ひとまずSFの下部カテゴリーという性格を強める方向で固まったことになります。

        これにより1979年から続いてきた全日本F3の歴史に終止符が打たれるわけですが、FIAが半ば強引に規定変更を推し進めた以上、当然の帰結でしょう。F3は世界共通仕様だからこそ、“世界との接点”として、日本でも行う価値があった。リージョナルF3に適合したところで、マカオGPに出場できるわけでもなく、もはやFIAに追従する価値も理由もありません。

        気になるエントラントに関しては、おそらく全日本F3勢はそのままSFLに移行すると思われます。ダッラーラが新車への切り替えに際して、新規購入とは別にアップデートキットを提供していることもありますが、自社製エンジンを使用するスリーボンドと戸田レーシングに、後述するリージョナルF3(マシンはワンメイク)に移るという選択はないでしょうし、明確な親カテゴリーとなるSF参戦中のトムスとB-Max with Motoparkも継続と考えるのが自然。YTB by Carlinにしても、CarlinにSF参戦の噂がありますし、現行マシンを別クラス(マスタークラス?)として継続使用できれば尚、今季と同程度の台数は確保できそうです。

        それにしても2年前の記事で、あくまで私案として”SF2”あるいは”SF Lite”という選択もアリでは?と記したのですが(F3のワンメイク化を考える)、まさか本当に実現してしまうとは思いもよりませんでした。

        ちなみに”SF Lite”というアイデアは、米国のIndy Lightsはもちろん、当時FIAが提唱していた”F3 Light”というコンセプトから取ったものでした。これはレベル差の大きいFIA F4と旧FIA F3(ヨーロピアンF3)の間を埋めようと構想された、いわば現在のリージョナルF3の基になったもの (FIA plans to introduce ‘F3 Light’ to F1 ladder for 2017) 。この規格に最初に適合したのが、BRDC British F4からシャシーとエンジンをアップデートして誕生した英国のBRDC British F3(かつての英国F3とは全くの別物)であり、これが雛形になったことで、リージョナルF3車両はF317系のような“正統な”F3ではなく、FIA F4に毛が生えたというか、多少アップデートした程度のマシンになってしまったわけです。

        私がリージョナルF3に否定的な理由の一つがコレで、欧州ではFormula Renault EurocupやEuroformula Openが事実上このポジションを担っており、わざわざFIAが手を出す必要はなかった。他地域にしても全日本F3やブラジルF3、豪州F3など、それぞれの競技レベルはともかく、 FIA F4と旧FIA F3の間に位置するシリーズはきちんと存在していたんですよね。それなのにFIAは全てをコントロールしたいがために、わざわざ新たな規格を作った。まったく無駄でしかない💢

        リージョナルF3の国内需要

        さてSFL誕生の一方で、国内で新たにリージョナルF3シリーズ (仮にF3RJとしましょう) を起ち上げる動きがあるようです。しかし果たして勝算はあるのでしょうか?

        このプロジェクトは童夢が主導しているとのことですが、なぜ彼らがリージョナルF3を積極的に推進するのか、今ひとつ読めない。もちろんF3/F4のコンストラクターであるダッラーラ、タトゥース、ミゲールと共に、FIAのテクニカル・ワーキング・グループに参加していた関係はありますが、ステファノ・ドメニカリ(FIAシングルシーター・コミッション委員長)も、BRDC British F3は“例外”であり、ナショナルF3の復活はFIAの目的でないと述べています (Modified F4 cars could form basis of FIA’s F3 Light concept) 。 

        事実、現在行われているリージョナルF3シリーズは、アジア、米国、欧州の3つですが、アジアと欧州はもちろん、米国も広大な国土を鑑みれば、事実上の“北米”シリーズと捉えられなくもない。しかし日本限定では、いくら何でもリージョナルと呼ぶには小さ過ぎます。

        最大のセールスポイントは、当然FIAから優遇される(であろう)スーパーライセンス・ポイントでしょうが、国内限定のシリーズにアジア&米国と同じ最大18点が配点されるかは不明な上、もしSFLがIndy Lightsと同じ最大15点程度に“格上げ”されると、ポイント差はほとんどなくなります。確かに参戦コストは下がるでしょうが、それ以外に性能の劣るF3RJを選ぶメリットはあるのか?

        またポイント付与には原則として最低12台のエントリーが必要とのこと。今季の全日本F3がギリギリ13台ですから、F3RJがそれをクリアできるのか?

        米国のRoad To Indy (Indy Lights〜Indy Pro2000 (旧Pro Mazda)〜USF2000) のような、フォーミュラ・ピラミッドを構築できれば良いのでしょうが、日本よりはるかに大きなマーケットを抱える米国ですら、台数確保に苦しんでいるのが現状です(Indy Lightsは昨年今年と概ね8〜9台)。マーケットの小さな日本で、3つのジュニアカテゴリーが共存するのは、あまり現実的とは思えません。

        F3アジアとの連携→東アジア選手権へ?

        と、ここまで否定的な話ばかりして来ましたが、F3アジアのウインターシリーズ移行に、日本側が一枚噛んでいるとすれば、ちょっと面白いことになるかもしれません。

        F3アジアの前身は中国を中心に行われていたFormula Masters China。その流れを汲みリニューアル後も中国中心に開催されていましたが、19-20シーズンでは一転してマレーシア、タイ、アブダビ、ドバイと東南アジア&中東での開催となります。もちろん時期的に仕方ないことではあるのですが、もしこれとは別にメインシーズンを日本のF3RJが担うとなると話は大きく変わってきます。

        これまで“F3RJ=国内シリーズ”前提で話をしてきましたが、これが実は単なる思い込みで、F3RJがこれまでのF3アジアを引き継ぐ形で、日本2戦、中国2戦、韓国1戦のような“東アジア選手権”になるのであれば、リージョナルと呼ぶには十分。国内だと懸念されるエントラントも、Absolute RacingをはじめF3アジアのチームがこちらにも参戦するとなれば、存在感としてはSFLと遜色ないものにもなり得ます。

        現状ではパッケージが違う(F3アジアはタトゥース+アルファロメオ (Autotechnicaチューン) )ため、童夢+トムス(推定)で統一する必要があるでしょうが、これならFIA F4の次のステップとして確かに魅力になるかもしれません(このシリーズ毎に車両が違うため、チーム間でマシンの売り買いができないのも、現在のF3/F4のデメリットですね)。

        一体、童夢はどのような画を描いているのでしょうか?

        ティクタム放出に見るレッドブルの方針回帰

        Photo: Autosport

        レッドブルがダニエル・ティクタムを育成メンバーから放出したというニュースには驚かされました。ほんの2ヶ月前にはF1のインシーズン・テストにも参加し、次期F1候補の筆頭と思われていただけに、まさに急転直下の事態です。

        かつての方針に回帰したレッドブル

        これまでレッドブルに対しては、有望な若手ドライバーを短期間で取っ替え引っ換えするやり方に批判が集まっていました。最近ではドライバー側から敬遠される例も増えており、シャルル・ルクレール、ランド・ノリス、ジョージ・ラッセルなど近年評価の高かったドライバーは、軒並み他チーム/メーカーに奪われている状況です。

        さすがのレッドブルも危機感を持ったのか、近年はカートからサポートを開始するなど、以前よりは長期的に育成に携わる方針に転換したかのようでした。

        しかしピエール・ガスリー以降、トロロッソ (STR) のドライバー候補にも事欠くほど傘下の若手が伸び悩み、ブレンドン・ハートレーやダニール・クビアト、アレクサンダー・アルボンといった一度は見限ったドライバーを呼び戻すという、レッドブルにとってはある意味、屈辱的な状況に陥っていました。さらにダニエル・リカルドが傘下を離れたことによって、後継者不足はより深刻化。そこで再びかつての“使い捨て”路線に回帰することになったようです。

        事実、このオフシーズンにはJuri Vips (FIA F3ランキング4位) 、角田裕毅 (FIA F4 Japanチャンピオン) 、Liam Lawson (ADAC F4 2位) 、Patricio O’Ward (インディライツ・チャンピオン) と、なりふり構わず大手メーカーと未契約(角田はホンダとの共同?)の有望ドライバーを買い漁っており、ティクタム放出への備えは整っていました。

        今になって思えば、インディ500前に突然O’Wardのジュニアチーム起用が発表された時点で、ティクタム放出は決まっていたのかもしれません。なぜインディに関与していないレッドブルが、インディカードライバーをジュニアチームに加えるのか疑問でしたが、Vips、角田、Lawsonの3人がF1まで早くともまだ1〜2年はかかるのに対し、O’Wardは欧州で言えばF2クラスのチャンピオン。昨年のインディ最終戦のようにロード/ストリートでの速さがあり、次期即戦力候補として白羽の矢が立ったと考えれば納得がいきます。

        個人的には2012年にレッドブル・ジュニアに抜擢されながら、参戦したFormula Renault 3.5 (FR3.5) では開幕から3ラウンドでノーポイントに終わり、わずか半年足らずで解雇されたLewis Williamson(偶然ですが彼も英国人)を真っ先に想起しましたね(彼の紹介記事はコチラ)。それでも放出時点での実績ではティクタムが大きく上回っており、驚きは今回の方が大きいです。

        バンドーン&ガスリーと比較する愚

        それにしても17年のマカオGP優勝以来、レッドブルが最も推していたはずのティクタムが、なぜこれほどあっさりと切られてしまったのでしょう?

        確かに今季のSuper Formula (SF) では、開幕3戦を終えて1ポイントしか獲得できず、レッドブルの期待を裏切ったかもしれません。ただその基準がガスリーやストフェル・バンドーンであるなら、それは筋違いというものです。

        FR3.5とGP2を合わせ、F1直下の“セカンドカテゴリー”を3年間経験していたガスリーに対し、ティクタムはまだF3を1年経験しただけの若輩。それ以前はMSA Formula (現在のBritish F4) とFormula Renault Eurocupにそれぞれ1年参戦したに過ぎません。

        そんな成長途上の若者を、文化も何もかも違う異国に送り込んで、いきなりガスリー・レベルの結果を出せというのは、土台無理な注文。ティクタムくらいの経験値であれば、最低でも2年は見積もり、1年目は学習に当てるのが“普通の”感覚ではないでしょうか? 逆にそんな経験の浅いドライバーでもガスリーと同等の結果を出せると踏んでいたのなら、レッドブル(ヘルムート・マルコ)こそSFを甘く見過ぎでしょう。

        伝統のマカオGP2連覇、激戦のFIA F3ではルーキーながらランキング2位という実績を、たった3戦で全て吹き飛ばしてしまうレッドブルの姿勢には、改めて嘆息するしかありません。

        マルコという人は自分から見ると極度の浮気性なんですね。マックス・フェルスタッペンのように新しい“おもちゃ”を見つけると、次々と目移りしてしまうんです。こういう人はF1チームのモータースポーツ・アドバイザーならともかく、育成組織のトップにはそもそも向いてないと思うんですけど。。。。

        ティクタムの適応能力と素行不良

        ではティクタム本人に問題はなかったのか? 

        SFに関しては前述の通り、結果云々言うのは時期尚早だと思います。ただ新しいクルマ、新しいカテゴリーへの適応度という点で疑問符が付くのは確かです。

        SFもそうですが、今年初めにスーパーライセンスポイント獲得のため参加したF3 Asia Winter Seriesでも、FIA F3より明らかに格下のシリーズにも関わらず、満足なリザルトを残せませんでした。結果的にはシリーズ自体がポイント要件を満たしていないことが判明し、シーズン途中で参戦中止となったわけですが、リージョナルF3カーへの適応に苦慮した様子が窺えます。

        また17年のEurocupでもわずか1勝+表彰台3回でランキング7位と低迷し、現在全日本F3参戦中のサシャ・フェネストラスや、FDA=フェラーリ・ジュニアのロバート・シュワルツマンらに大きく水を開けられていました。チームのレベルも関係するのでしょうが、ここでもEurocupのクルマに上手く順応できなかったように見えます。F3に関しては、18年のフル参戦以前にマカオGPに二度参加、Carlinからスポット参戦もしており、それなりに準備を整えられたのが大きいのでは?

        もちろんMSA Formula時代の愚行(SC中に他のクルマへ故意に衝突)により、1年間のレース出場禁止処分を受けたのも、後々まで響きました。これがなければ18年中にはF1テストに参加でき、今頃はSTRのシートに座っていたかもしれません。

        性格的な問題もネックになった可能性はあります。ここ2年ほどはさすがに成長したようにも感じられましたが、昨年のプレマ&ミック・シューマッハーに対するSNS上での批判(レギュレーション違反だと主張)で一悶着起こすなど、一旦物事が思うように行かなくなるとキレてしまう素行不良な部分は、実はあまり変わっていなかったのかもしれません。この辺は無限で彼を見ていた中野信治さんに聞いてみたいですね(と書いていたら、インタビューがありました→『ティクトゥムわずか3戦で解雇』の教訓。世界のドライバー育成の現実とレッドブルの厳しさ。中野信治監督&SRS副校長に聞く)。

        マカオ2勝の“呪い”

        エドアルド・モルターラ、フェリックス・ローゼンクビスト、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタと、マカオで2勝したドライバーはF1に乗れないというジンクスがありますが、彼らは2勝目の時点で既にF1とのリンクがない状態。まさかレッドブルのサポートを受けていたティクタムまで該当してしまうとは、思いもよりませんでした。もはやジンクスを超えて“呪い”とすら言いたくなりますね。

        もちろん今後別の形でサポートを得て、F1に昇格する可能性はまだ残されています。ただレッドブルとは1年だけの関係だったCallum Ilott (現在はFDA) などと違い、ティクタムはレッドブルの色が付きすぎているのが問題。F1に参戦するメルセデス、フェラーリ、ルノーが手を出すとは考え難く、可能性は限りなく低いと言わざるを得ません。

        最後にティクタムに代わってSFに参戦することになったメキシコ人のO’Ward。昨年のインディ最終戦でいきなり予選5位、決勝9位の衝撃的なデビューを飾り、今シーズンの活躍が期待されましたが、契約していたチーム(ハーディング・スタインブレナー)がコールトン・ハータ1台分しか参戦資金を確保していなかったことが判明。結局、開幕直前にチームを離脱することになり、運良くCarlinの空きシートに収まったものの、こちらはあくまでスポット契約。チームの競争力不足によりインディ500では予選落ちの屈辱も味わいました。インディライツで打ち負かし、デビュー戦でもチームメイトとして圧倒したハータが、デビューイヤーにして初優勝&初PPの大活躍を演じていることには、内心忸怩たる思いがあるはず。個人的にはもう少しインディでの走りを見たかった気持ちもありますね。

        ただインディの下部組織であるRoad To IndyからF1へのステップアップ・ルートに乗るというのは、おそらく初めてのケース。今後どのような結果になるのか興味深くもあります。